取締役会での報告を終えた情報システムの男は、自席に戻り考えていた。
アルカディアの女性社員は、何の問題もないといった。
だが、自分にはわかる、早く手を打たないと大変なことになる。
そのとき、アルカディアを創設した女性社員が近づいてくるのが見えた。
「ログイン情報の流出を防ぐことは不可能なのか」、女性社員がたずねる。
「不可能だ」、男が答える。
「なら、あるシステムを作ってもらいたい」、女性社員がいった。
そのあと、女性社員はシステムの内容を男に話し始めた。
「どれくらいでできる」、女性社員がたずねた。
「そうだな、2日あればできると思う」、男は答えた。
「じゃあ、頼んだ」、立ち去ろうとする女性社員に男が声をかけた。
「気をつけろよ」、女性社員が振り向きいった、「何にだ」
「このアクセスはあくまでも、何かの目的を達成するための手段だ。
間違いなく、このアクセスは敵の攻撃の前兆だ」
「なぜ、わかる」、女性社員がたずねた。
一瞬の間をおいて男は答えた、「経験からくる勘ですよ」
女性社員が立ち去ったあと、男は心の中でいった。
攻撃を受けた経験ではなく、攻撃した経験からくる勘ですよ。
男は大学生の頃、大手企業のサーバーに不正アクセスしていたハッカーだった。
男は不正アクセスで得た情報を、自分が立ち上げた会員制のサイトに書き込んでいた。
サイト上には、男を賞賛する書き込みが相次いだ。
男はヒーロー気取りだった。
攻撃を防ぐことができない奴らが悪い。
悔しかったら、俺を止めてみろ。
ある日、2階の自室にいると、母親が誰かと言い争っている声が聞こえた。
「うちの息子に限って、そんなことをする筈ありません」
しばらくして部屋のドアが乱暴に開けられ、複数の男が土足で部屋に入ってきた。
「君のしていることについて話を聞きたいんだ、一緒に来てもらえるかな」
男が行ったハッキングはマスコミに取り上げられ、自宅には多くのマスコミが押しかけた。
初犯であったこともあり、男は執行猶予つきの判決ですんだ。
だが男は大学を退学となり、家族は離散した。
家を出て1人暮らしを始め、バイトで食いつなぐ日々が始まった。
