第285話 名のない組織(後編)
深夜の新宿駅西口。
「探したぜ、やまちゃん、今夜の寝床はここか」
路上で寝袋にくるまっていたホームレスのやまちゃんは、目を覚ました。
やまちゃんが声の主を見ると、以前、何度か話をしたことがある若いホームレスだった。
「なんだよ、こんな時間に」、やまちゃんが起き上がりながらいう。
若いホームレスは、肩に下げていたリュックを下ろした。
「いい酒が手に入ったんだ、一緒に飲もうぜ」
若いホームレスはリュックから酒を取り出し、路上に並べ始めた。
「おめえ、これって、高級ウィスキーじゃねえか、しかも封も開いてない新品ばかり。
まさか、どっかから、かっぱらってきたのか」、やまちゃんが驚いて聞く。
「そんなことする訳ねえだろ、歌舞伎町で閉店するスナックがあったんだ。
店の後片付けを手伝ったら、お礼にとくれたんだよ」、若いホームレスは説明した。
数時間後、酔いつぶれたやまちゃんの横で、若いホームレスは立ち上がった。
数ヶ月前から、若いホームレスは組織の指示で、ある非合法組織の調査を行っていた。
奴らのことをいろいろ教えてくれて、ありがとうよ、元気でな、やまちゃん。
若いホームレスに扮していた長髪の痩せた組織の男は立ち去った。
都内にあるマンションの一室。
その一室は、外資系証券会社に勤務する組織の男の自宅だった。
半年前、組織は国内に潜入した非合法組織を国外退去させることを決定した。
半年前から、組織は準備してきたが、なかなか行動開始のきっかけを掴めなかった。
ところが今日、突如、インターネットに非合法組織の女の顔が配信された。
配信後、ネット上には、女に関する様々な情報が飛び交った。
ほとんどの情報が役に立たない情報だったが、ある情報は違った。
その情報は一般人にはわからないが、行動開始の決めてとなる極めて重要な情報だった。
組織の面々は、非合法組織を急襲し、国外退去させることに成功した。
並行して、ネットに女の顔を配信した少年の調査も行われていた。
男は、店にいた少年に店を出るよう警告すると、所定の場所までへのルートを送信した。
所定の場所で路上ロケをしていた番組スタッフに扮した男は、少年の連絡先を確認した。
男は組織のデータベースで、少年の素性を調べ終えたところだった。
少年の名はキミシマ ユウト、都内にある学生寮に住む大学生。
だが、通称、21世紀少年とも呼ばれている無敗の個人投資家だった。
来店目的を確認する必要があるな、ジョーカーと呼ばれている組織の男は思った。
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