都内にある邸宅。
居間には巨躯の男、無敗の相場師キングと天使の笑顔をもつ男の2人きりだった。
「何だ、話というのは」無敗の相場師キングがいう。
「考えるところがあって、アメリカへ行こうと思います」天使の笑顔をもつ男がいう。
「理由は」無敗の相場師キングがいう。
「先日の仕手戦、21世紀少年が考えた株を高く買って安く売る。
肉を斬らせて骨を断つ戦法、自分には思いつきもしませんでした。
修行を兼ねて、ウォール街で相場を張ることに決めました」天使の笑顔をもつ男がいう。
「最後の相場師の後継者になりたくないのか」無敗の相場師キングがいう。
「今だかって、ウォール街で成功した日本人相場師はいません。
申し訳ありませんが、後継者の話はなかったことにしていただけますか」
天使の笑顔をもつ男がいう。
2人の相場師の間に、静かな時間が流れた。
「よかろう、後継者の話はなかったことにしてやる。
米国に口座が開設できたら知らせろ、ワシの資金を移動してやる、必ず増やせ。
これから貴様は後継者ではない、ワシの投資先だ」無敗の相場師キングはいった。
数日後、都内にある調査会社。
男は定時になるのを待っていた。
「さっきから時計ばかり見てますけど、何か予定があるんですか」女性社員が聞く。
「約束があるんだ、おっ定時になった、お先に」男は退社した。
数日前、天使のような笑顔をもつ男からメールが届いた。
アメリカへ行くことになり、行く前にお会いしたいという内容だった。
調査会社の男は地下鉄を乗り継ぎ、待合せ場所の兜神社へ急いだ。
駅へ向かう会社員やOLの間を抜け、調査会社の男は足早に兜神社へ向かった。
暗がりの境内には、ダウンジャケット姿の1人の若者がいた。
若者は振り向くと、天使のような笑顔でいった。
「ご無沙汰しています、お元気そうで何よりです。
ひさしぶりに、あの定食屋へ連れていってもらえませんか」
「構わないが、願掛けは終わったのかい」調査会社の男がいう。
「あっ、忘れていました」天使の笑顔をもつ男がいう。
「おいおい、アメリカに兜神社はないぞ、さあ2人で願掛けだ」
2人の相場師は賽銭を投じると、証券界の守り神に祈った。
