2016年10月28日金曜日

銘柄を明かさない理由R148 Mother's birthday

第148話 Mother's birthday

メガネをかけた中学生の男の子は下校途中だった。
男の子は母親の再婚相手から暴力を受けていた。
やがて男の子は、再婚相手の暴力を見かねた祖父母に引き取られた。
祖父が亡くなったあと、男の子は祖母と2人暮らしだった。

あっ、お母さんだ、男の子は気づいた。
スーパーから出てきた女性は、男の子の母親だった。
「お母さん」、男の子は声をかけた。
「お母さん」と呼ばれた女性は、男の子をみると複雑な表情を浮かべた。

「元気にしているの」と母親がいう。
「うん、元気だよ、お母さんは元気にしている」、男の子が無邪気な笑顔で問う。
「なんとか、元気にしているわ」、母親がいう。
「お母さん、確か今日は誕生日だよね」、男の子がいう。

「そうよ」、母親は答える。
「ちょっと待ってて」といい、男の子は母親を残し近くのATMへ向かった。
男の子は祖父の残してくれた資産を、株式取引で増やしていた。
男の子は、ATMで限度額一杯の現金を引き出した。

お母さんは、お金に困っているはずだ。
お金を渡せば、お母さんは喜んでくれるはずだ。
男の子はATMにある封筒に引き出した現金を入れた。
男の子は現金の入った封筒を手に母親の元へ向かった。

「お母さん、はい、誕生日プレゼント」
男の子は母親に現金の入った封筒を差し出した。
「なに、これ」、母親は封筒を手にとった。
封筒の中を見た母親は絶句した。

「お母さん嬉しくないの」、男の子がたずねる。
「これだけのお金をどうやって手に入れたの」、母親がいう。
「おじいちゃんに教えてもらった株だよ」、男の子がいう。
親子の間に沈黙が流れた。

「最高の誕生日プレゼントをありがとう。
でも一生、使うことができないプレゼントかもしれない」、母親がいう。
「また、いつかお母さんの手料理をお腹いっぱい食べさせてね」
男の子はにっこりと笑い、その場を後にした。