2016年10月10日月曜日

銘柄を明かさない理由R145 ノンフレームメガネの男

第145話 ノンフレームメガネの男

世界有数の保険法人の日本オフィス。
ノンフレームメガネをかけたラフな男は、ある調査会社からの報告書を読んでいた。
1ヶ月前、大手外資系証券会社に勤務する男から依頼があった報告書だった。
保険法人と取引のある調査会社に、ある調査をして欲しいという内容だった。

銀座の高級クラブで、著名な株式評論家が薬物らしきものを飲まされた。
ついては、誰の仕業か調べて欲しいという内容だった。
普通なら、直接、依頼するよう回答する。
だが、外資系証券会社が大口の取引先だったことから、仲介役を引き受けた。

報告書には、薬物らしきものを飲ませるように指示した男の名前が記されていた。
高校時代の同級生が勤める証券会社の会長の名前だった。
バブル相場で巨額の富を手に入れた男、業界で知らない者はいない男。
最後の相場師に師事した大物相場師、無敗のキング。

なぜ、大物相場師が株式評論家に薬物らしきものを飲ませるように指示したのか。
なぜ、外資系証券会社がそのことを調べているのか。
何か始まろうとしているのか、それともすでに始まっているのか。
ノンフレームメガネの男はアシスタントに、報告書を外資系証券会社に送るよう指示した。

ふと、ノンフレームメガネの男は思った。
なぜ、外資系証券会社は、あの調査会社を指名したのか。
あの調査会社は、元社員だった社長と男性1名、女性1名の小さな調査会社だ。
だが、入社したとき、上司から高難度の案件は、あの調査会社に依頼するようにいわれた。

取引している調査会社はいくつもある。
だが、一桁しか社員がいない調査会社は、あの調査会社だけだ。
狸に似た社長に、どのような過去があるのか。
調べてみるか、ノンフレームメガネをかけたラフな男は人事部へ向かった。

人事部の社員が調べて教えてくれた。
狸に似た社長は、英国で採用され、海外勤務が長かったらしい。
日本勤務になり、しばらくしてから退社、調査会社を興した。
高難度の案件をこなせること、元社員の会社であることから、重宝しているという話だった。

あの狸に似た社長、仕事ができることは間違いない。
勤務していれば、かなりの地位につけたはずだ、なぜ、辞めて調査会社を興したのだろう。
ノンフレームメガネの男は知らなかった。
狸に似た社長が、この国を守る組織からの指示で、調査会社を興したことを。