2016年10月1日土曜日

銘柄を明かさない理由R144 狐と狸(後編)

第144話 狐と狸(後編)

翌朝、都内にある調査会社。
男が資料を確認していると、女性社員が出社してきた。
「ひさしぶりだね、おはよう」、男がいう。
「昨夜、会ったばかりじゃないですか」、女性社員は怒りながらいった。

「情報入手の連絡したら、2人で店にやってきて、社長1人で勝手に転ぶなんて。
あんな方法で辞めさせなくてもいいでしょう。
昨夜はマネージャーから、延々と説教されましたよ。
場合によっては、損害賠償請求するとまでいわれました」、女性社員はいった。

「あらかじめ教えておくと、驚かないだろ」、男が笑いながらいった。
「ったくもう、ところで社長は」、女性社員が聞く。
「昨夜、運ばれた病院で検査をした、もちろん受け身をとったので頭は異常なしだった。
ところが他によくないところが見つかり、精密検査するらしい」、男が笑いながらいう。

「ええっ、何ですか、それ、社長の検査費用をわたしが払うんですか」、女性社員がいう。
「心配しなくてもいい、店には請求しないそうだ」、男が笑いながらいう。
「当たり前です」、女性社員は怒りが覚めやらぬ様子で仕事の準備を始めた。
ふと視線が気になり見ると、男が女性社員を見ていた。

「何、見ているんですか」、女性社員がいう。
「い、いや、何か雰囲気が変わったなと思って」、男がいう。
「毎晩、酔っ払いの相手をしていたら、雰囲気も変わりますよ。
男のイヤな部分をたくさん見たんです、あ~絶対、婚期遅れるわ」、女性社員がいう。

「それは社長に損害賠償請求してもいいかもしれないな。
ところで誰が株式評論家の先生に薬物らしきものを飲ませたんだい」、男が聞く。
「飲ませたのは店で1、2を争うホステス、指示をしたのは、この男」
女性社員はバッグからメモを取り出し男に渡した。

「その情報を聞き出すために、どれだけ気をつかったことか。
先輩たちの服や持ち物、仕事ぶりを褒めまくりましたよ。
女の世界の恐ろしさを、つくづく感じました。
あ~あの世界は、わたしにはムリ」、女性社員はいった。

メモを受け取った男は、メモに書かれた名前に見入っていた。
指示をした男は、最後の相場師に師事した大物相場師キングだったのか。
なぜだ、なぜキングは株式評論家から、情報を得ようとしたんだ。
相場で何かが起ころうとしているのか、いや、すでに起こっているのか、男は思った。