2016年10月10日月曜日

【ショートショート】ゴミ捨て場の心理戦

男には欲しいものがあった。
娘の服を収納する衣装ケースである。
大学生になってから、娘が頻繁に服を買ってくる。
自宅の居住スペースは、娘の服に占領されつつあった。

あと半年もすれば、ゴミ屋敷ならぬ服屋敷になってしまう。
このままでは、娘の服の中で生活しなくてはならなくなる。
幸いにも、ベッドの下のスペースが空いている。
ベッドの下に入る衣装ケースさえあれば、居住スペースへの侵攻を遅らせることができる。

そんなある日、男はゴミ捨て場でゴミを捨てていた。
背後で音がしたので見ると、主婦らしき女性が空のボックスを捨てていた。
見たところ、まだ使えそうだ、男は時間をかけてゴミを捨てた。
女性が立ち去ったあと、男はボックスに近づいた。

まだ使えるじゃないか、しかも使用状態も良好だ。
ベッドの下にも入りそうだ、男は手の指を使って大きさを測った。
このまま持って帰るか、いや女性が戻ってきたらどうする。
会った瞬間、何といえばいい、忘れ物ですよとでもいうのか、男は躊躇した。

しかも、あの家はボックスを買う金にも困っている、という噂が広まるかもしれない。
ここは一旦、帰って、明日の朝、誰もいない時間に取りに来よう。
男は帰宅し、ベッドの下にボックスが入ることを確認すると、眠りについた。
翌朝、ゴミ捨て場にいくと、ボックスは誰かに持ち去られていたw