2016年7月24日日曜日

銘柄を明かさない理由R109 異能の集団(中編)

第109話 異能の集団(中編)

やがて開始時間になり、「研究会」が始まった。
部屋の照明が落とされ、スクリーンにパワーポイントが投射される。
前方に座っている巨躯の男が、直近の相場についてスライドを元に解説した。
「では、右から順に、戦果を報告せよ」、巨躯の男は命じた。

メガネをかけた中学生の男子生徒が読んでいた参考書を閉じた。
おもむろにメガネを外すと、メガネの曇りを拭きながら報告した。
男子生徒が手がけた銘柄での1ヶ月リターンは、驚くべき数字だった。
報告を終えると、男子生徒はメガネをかけ、再び参考書を開いて読み始めた。

次は、安物のスーツに使い古した革靴を履いた30代くらいの男性会社員だった。
男性会社員が顔を上げたとき、表情は一変していた。
鋭い眼光をもつ男の顔は、一度、見たら到底、忘れることはできない。
その男の手がけた銘柄と1ヶ月リターンも、驚くべき数字だった。

次は、派手なメイクの20代と思しき、水商売の女性だった。
女性は妖艶な、ぞっとするような笑みを浮かべていた。
名刺を渡された際の営業スマイルは、完全に消え去っていた。
女性の手がけた銘柄と1ヶ月リターンも、驚くべき数字だった。

車椅子の高齢男性、専業主婦らしき女性、フリーター風の男など。
他の出席者の報告も驚くべきリターンだった。
こいつら、いったい何者なんだ。
皆がこんなリターンを上げられるわけがない、天使の笑顔をもつ男は思った。

一通りの報告が終わった後、巨躯の男が話し出した。
関西のある相場師との仕手戦の内容と、桁違いのリターンの報告だった。
銘柄を聞いた天使の笑顔をもつ男は思った。
あの仕手戦での閃光の買いは、この男だったのかと。

やがて、質疑応答の時間になった。
派手なメイクの20代と思しき、水商売の女性がいった。
「さっきから気になっているんですけど、後ろのイケメンさんはどちらさんですか」
全員が振り返って、後方に立っている天使の笑顔をもつ男を見た。

巨躯の男がいう、「紹介が遅れたが、ワシの後継者だ」
「ご指導よろしくお願いしますね」、中学生の男子生徒が参考書を読みながらいう。
「先生の後継者ですか、きっと優秀なんでしょうね」、男性会社員がいう。
「後継者なら、さぞかし投資がお強いのかしら」、水商売の女性がいう。