2016年7月17日日曜日

銘柄を明かさない理由R105 The power of love(前編)

第105話 The power of love(前編)

調査会社に勤める男にとっては、楽な調査だった。
生きている限り、必ず何らかの痕跡は残る。
事実、天使の笑顔をもつ男の居場所を見つけるまで、わずか数日だった。
ここか、男は立派な邸宅の前で、天使の笑顔をもつ男が出てくるのを待っていた。

やがて、ガレージのシャッターが開いた。
黒塗りの高級車が出てきて、走り去った。
後部座席に座っていたのは、天使の笑顔をもつ男だった。
その横に座っていた大柄な男、奴がこの家の主で今回のキーマンだ。

大柄な男の身元も、すでに調べを終えていた。
今は自分が創立した証券会社の会長の座に就いている大物相場師。
しかも、アルカディアを有する証券会社の会長とは。
あとは依頼者への報告だな、男はその場を後にした。

閉店し、のれんの下ろされた定食屋。
「すいません、遅くなりました」、天使の笑顔をもつ男の彼女が入ってきた。
「待ってたわよ、わかったんだって、よかったね」、女性店主がいう。
「ありがとうございます、でも直接、電話で連絡いただければ」、彼女がいう。

厨房に向かう女性店主が背中越しにいう、「電話だとうまく伝わらないこともあるしね」
調査会社に勤める男が、声を潜めていった。
「いくら歳の離れたオジサンのことでも、この店での発言には細心の注意を払うことだ」
「勉強になりました」、彼女は小さな声でいった。

男の報告内容は以下だった。
天使の笑顔をもつ男は、ある証券会社の会長の家にいる。
昼夜、証券会社の会長と行動を共にしている。
なぜ、そうなったかは不明だが、自ら望んでそうしたと思われる。

「明日、その家に案内してもらえますか」、天使の笑顔をもつ男の彼女がいう。
「構わないが、どのような結果になっても後悔しないか」、男がいう。
「このまま会わずにいれば、後悔します」、天使の笑顔をもつ男の彼女がいう。
「わかった」、男はいい、待ち合わせ場所と時間を伝えた。

「大丈夫、必ず上手くいくわよ、さあ前夜祭よ」、女性店主が料理を運んできた。
「ありがとうございます」、天使の笑顔をもつ男の彼女がいう。
正直いって、明日どのような展開になるのかわからない。
相場と違って男女の仲は読めない、飲みながら男は思った。