2016年3月29日火曜日

銘柄を明かさない理由R53 最初の仕事

第53話 最初の仕事

ある日のこと、ある求人雑誌の求人が男の目に止まった。
「システムエンジニア求む、経験学歴不問」というものだった。
聞いたこともない金融情報サービスの会社の求人だった。
男はダメ元で、ハッキングのことも含め、正直な経歴を履歴書に書いて送った。

面接日時の連絡があったのは、履歴書を送って数日後だった。
面接の当日、男は募集をしていた金融情報サービスの会社を訪れた。
築年数の古そうな雑居ビルの一室に、その会社はあった。
面接に来たことを伝えると、応接室らしき部屋へ通された。

お茶を持ってきた男性社員が、部屋を出る際にいった。
「我が社が、君に選ばれることを願っているよ」
今、何ていった、君に選ばれる、聞き間違いに違いないと男は思った。
突然、部屋のドアを開けて、巨躯の男が入ってきた。

慌てて立ち上がろうとする男を手で制し、巨躯の男は向かいのソファに座った。
巨躯の男は、男の顔を見据えた。
心の中まで見透かされそうな目だ、男は巨躯の男の眼力に耐えた。
やがて巨躯の男は、男の顔を見据えたままいった、「いつから来れる」

「採用されたということでしょうか」、男はたずねた。
「そうだ」、巨躯の男はいった。
「なぜ、採用されたのですか」、男は再び、たずねた。
「採用してもよいと思ったからだ、他にどのような理由がある」、巨躯の男がいった。

「履歴書に書いたように罪を犯した人間ですよ、簡単に雇い入れてよいのですか」
「これからも罪を犯すのか」、巨躯の男はいった。
「二度と罪は犯しません」、男はきっぱりといった。
「なら何も問題はない、経験学歴不問とあっただろう、採用だ」、巨躯の男はいった。

男の最初の仕事は、下校中の子どもたちへ封筒を渡すことだった。
最初にいわれたときは正直、面食らった。
男は商店街の一角で、下校中の子どもたちに封筒を渡しまくった。
あとで、その目的と成果を聞いた男は、案外いい会社かもしれないと思った。

入社したときは、雑居ビルの1室にしか拠点がなかった。
それが今や全国の主要都市に拠点を持つまでに成長した。
会社の主要なシステムには、全て男が関わっていた。
攻撃されたら反撃か、男は女性社員から依頼されたシステムの構築に取り掛かった。