第48話 バトルモード突入
天使の笑顔をもつ男は、自宅で取引開始時間を待っていた。
自分は学生なので、講義のない日はリアルタイムで取引できる。
卒業すれば、リアルタイムでの取引はほぼ不可能になる。
リアルタイムで取引できることが、今の自分にとって最大の強みであり武器だ。
小柄な小動物を連想させる女性は、数日前から毎日が楽しくて仕方がなかった。
「本日も買い注文確認しました」、女性はインカムで創設者の社員に報告した。
「任せた」と創設者の社員から指示が返ってきた。
援護は任せて、巨大人型兵器が戦うアニメの曲をBGMに女性はトレーディングを始めた。
後場になり、小柄な小動物を連想させる女性は、バトルモードに入っていた。
あら、そんな高値で売りたいの、そんな高値で買うわけないでしょ。
女性は大幅に低い指値で買い注文を入れた、しかも大量の買い注文だった。
私を落としたいなら、ここまで来てね、女性はモニターに向かってウインクした。
女性は隣のモニターに素早く目をやった。
隣のモニターの銘柄は、日経平均に大きく影響する大型株だった。
朝方、大きく売られたときに仕込んだが、徐々に値を戻してきつつあった。
これから騰がるか下がるか、どちらへ動くのかしら、まっ、どちらに動いても戴くけどね。
最初のモニターに目をやると、株価が徐々に女性の指値に近づいてきていた。
焦らない、焦らない、焦る男はモテナイわよ。
女性が指値を大幅に上げて、発注すると、瞬時に全てが約定した。
一瞬の間をおいて、無敗の個人投資家が売り抜けた。
いつもながら早いのね、私はもう少し遊んでいくわね。
モニターの中では、徐々に売り注文が膨らみつつあった。
懲りないのね、女性は大量の買い注文と売り注文を同時に入れた。
瞬時に全てが約定した、まだまだ、お楽しみはこれからよ、女性は微笑んだ。
短期売買、いわゆるデイトレードで連戦連勝を続けることは、通常は不可能である。
デイトレードでの連戦連勝は、コイン投げで出る面を当て続けることと同じである。
初日に勝つ確率は1/2、翌日も勝つ確率は1/4と、連戦連勝の確率は低下する。
だが、豊富な資金で機動的な売買を行えば、連戦連勝を続けることも可能なのである。
まただ、天使の笑顔をもつ男は思った。
自分の買いに呼応するかのように、大きな買いが入る。
1度や2度なら偶然かもしれないが、ここまで続くと偶然とは思えない。
誰が、いったい何の目的で、大きな買いを入れてくるのだろう。