2016年3月13日日曜日

銘柄を明かさない理由R48 バトルモード突入

第48話 バトルモード突入

天使の笑顔をもつ男は、自宅で取引開始時間を待っていた。
自分は学生なので、講義のない日はリアルタイムで取引できる。
卒業すれば、リアルタイムでの取引はほぼ不可能になる。
リアルタイムで取引できることが、今の自分にとって最大の強みであり武器だ。

小柄な小動物を連想させる女性は、数日前から毎日が楽しくて仕方がなかった。
「本日も買い注文確認しました」、女性はインカムで創設者の社員に報告した。
「任せた」と創設者の社員から指示が返ってきた。
援護は任せて、巨大人型兵器が戦うアニメの曲をBGMに女性はトレーディングを始めた。

後場になり、小柄な小動物を連想させる女性は、バトルモードに入っていた。
あら、そんな高値で売りたいの、そんな高値で買うわけないでしょ。
女性は大幅に低い指値で買い注文を入れた、しかも大量の買い注文だった。
私を落としたいなら、ここまで来てね、女性はモニターに向かってウインクした。

女性は隣のモニターに素早く目をやった。
隣のモニターの銘柄は、日経平均に大きく影響する大型株だった。
朝方、大きく売られたときに仕込んだが、徐々に値を戻してきつつあった。
これから騰がるか下がるか、どちらへ動くのかしら、まっ、どちらに動いても戴くけどね。

最初のモニターに目をやると、株価が徐々に女性の指値に近づいてきていた。
焦らない、焦らない、焦る男はモテナイわよ。
女性が指値を大幅に上げて、発注すると、瞬時に全てが約定した。
一瞬の間をおいて、無敗の個人投資家が売り抜けた。

いつもながら早いのね、私はもう少し遊んでいくわね。
モニターの中では、徐々に売り注文が膨らみつつあった。
懲りないのね、女性は大量の買い注文と売り注文を同時に入れた。
瞬時に全てが約定した、まだまだ、お楽しみはこれからよ、女性は微笑んだ。

短期売買、いわゆるデイトレードで連戦連勝を続けることは、通常は不可能である。
デイトレードでの連戦連勝は、コイン投げで出る面を当て続けることと同じである。
初日に勝つ確率は1/2、翌日も勝つ確率は1/4と、連戦連勝の確率は低下する。
だが、豊富な資金で機動的な売買を行えば、連戦連勝を続けることも可能なのである。

まただ、天使の笑顔をもつ男は思った。
自分の買いに呼応するかのように、大きな買いが入る。
1度や2度なら偶然かもしれないが、ここまで続くと偶然とは思えない。
誰が、いったい何の目的で、大きな買いを入れてくるのだろう。