2016年3月6日日曜日

銘柄を明かさない理由R47 残酷な天使のテーゼ(後編)

第47話 残酷な天使のテーゼ(後編)

テレビのニュースを観ていると、女性店主が「魔王」の瓶とグラスを運んできた。
「あの人に連絡したら、今夜は来れないので、好きなだけ飲ませてやってくれって」
女性店主が笑顔でいい、ロックを作って手渡してくれた。
「すぐに料理を用意するから、待っててね」、女性店主は厨房に戻っていった。

参ったな、そんなつもりじゃなかったのに、天使の笑顔をもつ男は思った。
やがて小鉢料理が運ばれてきて、1人での晩酌が始まった。
全国の学生で、こうやって1人で晩酌しているのは、自分だけだろうなと思った。
やがて店内の客も減り、一段落したのか、女性店主がやってきた。

近くのイスに座り、2杯目のロックを作って手渡してくれた。
「あの人に何か話があって来たんでしょ、私でよければ聞いてあげるわよ」
少し迷ったが、ほろ酔い気分もあり、話すことにした。
どうすれば男に認めてもらえるのか悩んでいる、天使の笑顔をもつ男は話した。

話を聞いた女性店主は、笑いをこらえながら、いった。
「あの人は、あなたを認める認めないなんてことができる人じゃないわ。
ただの株好きのオジサンよ、私からいわせると若い分、あなたの方が優っているわよ。
あなたの方があの人より優っている、私が保証するわよ」

定食屋からの帰り道、天使の笑顔をもつ男は思っていた。
自分は、いつの間にか男に認めてもらわなければと考えていた。
「自分が世界で一番、偉いと思うことだ、無敗の極意はそこにある」
天使の笑顔をもつ男は、男の助言の真の意味がわかった気がした。

翌日、天使の笑顔をもつ男は、自宅で取引開始時間を待っていた。
自分は学生なので、講義のない日はリアルタイムで取引できる。
卒業すれば、リアルタイムでの取引はほぼ不可能になる。
リアルタイムで取引できることが、今の自分にとって最大の強みであり武器だ。

小柄な小動物を連想させる女性は、数日前から毎日が楽しくて仕方がなかった。
女性は、ある証券会社の資産を運用する部署、通称アルカディアに配属されている。
アルカディアは無敗の個人投資家たちの売買情報を元に、会社の資産運用を行っている。
だが無敗の個人投資家たちは売買頻度が少ないため、トレーディング回数も限られていた。

ところが数日前から、ある無敗の個人投資家が毎日のように売買するようになった。
「本日も買い注文確認しました」、女性はインカムで創設者の社員に報告した。
「任せた」と創設者の社員から指示が返ってきた。
援護は任せて、巨大人型兵器が戦うアニメの曲をBGMに女性はトレーディングを始めた。