2016年3月6日日曜日

銘柄を明かさない理由R46 残酷な天使のテーゼ(前編)

第46話 残酷な天使のテーゼ(前編)

天使の笑顔はもつ男は、買値より低い株価で保有株の買い増しを行った。
翌日、天使の笑顔はもつ男は、定食屋で助言をもらった男のブログを読んだ。
ブログには、男も同じ日に買い増しを行ったことが書いてあった。
自分の判断に間違いはなかった、天使の笑顔をもつ男は安堵した。

親子ほど年の離れた2人だが、男はストレートに助言をしてくれる。
相場の世界で自分は1人じゃない、それはよかったと思っている。
だが男の助言に従っているだけでは、男に認めてもらうことはできないと思った。
どうすれば、男に認めてもらえるか、天使の笑顔をもつ男が考える日が続いた。

あの定食屋に行けば、男に会えるかもしれない。
会って話せば、認めてもらえるためのヒントが見つかるかもしれない。
そう思った天使の笑顔をもつ男は、夕方になると自宅を出て、定食屋へ向かった。
電車を乗り継ぎ、定食屋の最寄り駅で下車、定食屋へ向かって歩き始めた。

すれ違う女性たちは一様に、天使の笑顔をもつ男に目を引かれた。
やがて、のれんの下がった定食屋についた。
引き戸を開けて中に入ると、店内は半分ほど席が埋まっていた。
「いらっしゃいませ」、調理中なのか奥から女性店主の声がした。

店内をざっと見回したが、男の姿はなかった。
手近のテーブルのイスに座り、店内にあるテレビのニュースを観ていた。
ほどなく、女性店主が近くのテーブルの客に料理を運んだ。
運んだ後、水の入ったグラスを持って、注文を取りにやってきた。

「すいません、遅くなって、あら」、女性店主は天使の笑顔をもつ男に気づいた。
「ひさしぶりね、1人で来てくれたの」と女性店主がたずねる。
「たまたま近くを通りかかったもので、今日はあの男の人はいないんですね」
天使の笑顔をもつ男は女性店主に聞いてみた。

「一緒に来てくれた日から来ていないわ、あの人の連絡先知っているから呼んであげようか」
「いえ、そこまでしていただかなくても結構です、それよりオススメの料理を頂けますか」
「ウチの料理は全てオススメよ、じゃあ、お任せでいいかしら」
「はい、お任せでお願いします」、天使の笑顔をもつ男は笑顔で答えた。

厨房へ向かう女性店主を見送りながら、天使の笑顔をもつ男は思った。
あの人か、男と女性店主はどういう関係なんだろう。
それにしても、女性店主は笑顔の素敵な人だ。
あの笑顔で話しかけられると、自分まで自然と笑顔になってしまう。