2016年1月31日日曜日

銘柄を明かさない理由R30 Plan your trades

第30話 Plan your trades

天使の笑顔をもつ男は考えていた。
昨年、元本を引き上げてから、相場は下がり始めている。
次に自分がとるべき行動は何か。
現在、保有している株を運用するだけでは、資産は大きく増えない。

追加資金の投入、元本の再投資が必要だ。
保有株の株価が買値まで下がったときに、買い増す。
やがて株価が上昇したときに、再度、元本回収の売りをすれば、どうなる。
男はシミュレーションした。

10,000株を購入し、株価が倍になったら、5,000株を売って元本を回収する。
株価が買値に戻り、10,000株を購入すれば、合計15,000株になる。
再び株価が倍になったら、5,000株を売って元本を回収しても、10,000株が残る。
長期にわたって、同じ銘柄を繰り返し売買すれば株は増え続ける、男は決めた。

ウォール街には以下の格言がある。
Plan your trades. Trade your plan.
トレードをプランし、そのプランでトレードしろという意味である。
思いつきでトレードしても、うまくはいかないという戒めである。

日本の相場は、江戸時代の米相場から始まったといわれている。
当時の相場師たちが手がけていたのは、米だけだったのである。
また株の名人とよばれた邱永漢氏が同じ銘柄を繰り返し売買したことは広く知られている。
男のプラン、同じ銘柄を繰り返し売買する手法は、投資手法の王道だったのである。

一昨年、元本を引き上げた男も同じことを考えていた。
現在、保有しているある株が買値まで下がったら、追加資金を投入して買い増す。
もし下がり続けて半値になれば、無限ナンピンするまでだ。
ある程度、株価が騰がったところで、再び、元本引上げの売りだ。

偶然にも、2人が買い増しすると決めたのは同じ株で、購入時期もほぼ同じだった。
大発会から下がり続ける相場で、その株の株価は2人の買値に近づきつつあった。
まだだ、まだ騰がるんじゃない、そうだ、その調子で下がり続けろ。
2人の無敗の個人投資家は、そのときを待ち構えていた。

ある証券会社の資産運用を担当する部署、通称アルカディア。
昨年、メイン株を全数売却してから、アルカディアメンバーは召集されていなかった。
「この下落相場はいつまで続くんでしょうね」小柄な小動物を連想させる女性社員がいう。
新聞を読んでいた創設者の社員がいう、「無敗の個人投資家たちが買うまでだよ」