2016年1月24日日曜日

銘柄を明かさない理由R27 新たなる戦い

第27話 新たなる戦い

2015年の元旦。
男は初詣に来ていた。
数年前、行きつけにしていた定食屋の女性店主に初詣に誘われた。
以来、女性店主との初詣が毎年の恒例行事になっている。

男は人ごみの中、思案していた。
2020年の東京オリンピック、そのとき相場は天井を迎える。
売るのは、2020年の相場が天井を迎えたときだ。
それまでに必ず大きく下げるときがくる、その時に全力買いだな。

視線を感じて顔を向けると、女性店主が見ている。
「また、考え事してる、せっかくなんだから会話しましょうよ」
「いつか、やらせろ」男がいい、「いつかね」と女性店主が答える。
このやり取りも毎年恒例だった。

男たちの数十メートル後ろには、若い男女がいた。
若い男は考えていた。
2020年に株価が最高値になることは間違いない。
このチャンスを最大限に活かすために、今、自分がとるべき行動は何か。

来るべき仕込み時期に備えて、元本を引き上げておくか。
決めた、今年、高値をつけたときに、元本引上げだ。
視線を感じて顔を向けると、ゼミ仲間の女性が不思議そうに見ている。
「ごめん、考え事してた」、男は天使のような笑顔で答えた。

2015年の大発会の日。
賑わう東京証券取引所に1人の男の姿があった。
ある証券会社の会長である男にとって、東京証券取引所は戦場でしかなかった。
我社には優秀な兵が揃っている、これからも我社の独り勝ちだ、男は心の中で呟いた。

同じ頃、ある証券会社の資産運用を行う部署、通称アルカディア。
小柄な小動物を連想させる女性社員がいう。
「無敗の個人投資家達が、今年はどういう動きをするのか楽しみですね」
創設者の社員が答える。

「さあな、だが必ず勝つための正しい動きをするはずだ。
これからも彼ら無敗の個人投資家と共に勝ち続けるぞ」
「はい」、アルカディアに女性社員の元気な声が響いた。
2015年、5人の相場師たちの新たなる戦いが始まろうとしていた。