2016年1月24日日曜日

銘柄を明かさない理由R26 アルカディアへようこそ

第26話 アルカディアへようこそ

ある証券会社の資産運用を担当する部署、アルカディア。
精鋭揃いの女性トレーダー10名で構成されたアルカディアは、連戦連勝の無敗だった。
ある日、退職した広報の女性社員の後任の新人女性が、アルカディアにやってきた。
新人女性は午後のトレードだけで、9人の合計を上回る利益をたたき出した。

広報へ戻りながら、女性は思った。
怒られはしなかったけど、自分を見るメンバーの目は冷たかった。
もう二度とアルカディアに呼ばれることはないだろうな。
できれば、もう一度、アルカディアで仕事をしたかったな、彼女の頬に光るものが流れた。

広報に戻ってきた彼女を見て、上司は思った。
早速、アルカディアで何かやらかしたのか、ひどい落ち込みようだな。
かわいそうだが、自分で乗り越えるしかないぞと。
上司は知らなかった、彼女が上司の年収を遥かに超える利益をたたき出していたことを。

メンバー全員が退室したあと、彼女の取引内容を確認して、創設者の社員は驚愕した。
午後の数時間で、彼女は驚くべき回数の取引をしていた。
しかも、同時間帯に複数の銘柄の取引を繰り返していた。
目まぐるしく指値を変更しながら、的確に利益を確定している取引だった。

あの女、何者だ、とてもじゃないが人間技じゃない。
中途入社のプロトレーダーか、でないと不可能な取引だ。
そこいらのトレーダーにできる芸当じゃない、間違いない奴はプロだ。
創設者の社員は社長室秘書に、新人女性の経歴を送るよう依頼した。

ほどなくして、社長室秘書から新人女性の経歴が届けられた。
あの女、プロではなかったのか、経歴を読んで創設者の社員は呆気にとられた。
しかも、入社後、短期間で転々と部署を異動させられている。
面白い奴を見つけた、創設者の社員は社長室秘書にある依頼をした。

数日後、女性を広報から総務部付とする辞令が出た。
アルカディアでミスしたからだわ、女性は落ち込みながら総務部へ向かった。
半ば放心状態の女性に、総務部の社員はアルカディアへ向かうよういった。
ノックも忘れてアルカディアに入室した女性を待っていたのは、創設者の社員だった。

「アルカディアへようこそ、アルカディアは君のような人を待っていた。
これからはここが君の居場所だ、思う存分、君の素晴らしい才能を発揮してくれたまえ」
創設者の社員の言葉に、天然だといわれ続けていた女性社員は泣き崩れた。
創設者の社員がいくらなだめても、女性社員は子どものように声をあげて泣き続けた。