2016年1月12日火曜日

銘柄を明かさない理由R17 Sell when others buy

第17話 Sell when others buy

2013年、政府の経済施策により、日経平均株価は上昇していた。
男が保有する株式評価損益額は、住宅ローンの一括完済に必要な額を超えていた。
2005年から株式投資を始めて、ようやく住宅ローンを一括完済できる額になった。
だが、ここで保有株を全数、売却すれば、資産はゼロになり、一からやり直しだ。

しかも今は上昇相場で、この先も株価は騰がり続けるかもしれない。
だが売らずにいて、株価が下がれば、また待ち続けなくてはならない。
いつ売るか、考える男の眼がある記事を捉えた。
これだ、この時期に売りだ、男は答えを見つけた。

ある証券会社の資産運用を担当する部署、アルカディア。
2013年になってから、アルカディアではメンバーの召集頻度が増していた。
政府の経済施策と今年で軽減税率が終了することが、相場の追い風になっていた。
今年は刈り取りの年だ、創設者の社員はミーティングの度にメンバーに伝えていた。

アルカディアでは、無敗の個人投資家たちのデータを活用していた。
無敗の個人投資家たちも、その多くが利益確定の動きを見せ始めていた。
「無敗の個人投資家が売りです」、「こちらも無敗の個人投資家の売りを確認しました」
年末が近づくにつれ、アルカディアは活気に満ちていった。

2013年12月、軽減税率が適用される最後の取引が終わった。
アルカディアは過去、最高の利益をたたき出していた。
無敗の投資家たちも、その多くが利益を確定していた。
これからは売られた株を仕込む、創設者の社員はメンバーに告げた。

軽減税率が適用されなくなったある日、男はPCを起動した。
2013年の年初と比べ、男の保有する株式評価損益額は大幅に増加していた。
元本分を売って出金しても、取引口座にはそこそこの資産が残る。
男は元本引上げの過去最高額の売りを発注すると、PCを閉じ、出勤の身支度を始めた。

日本の相場格言の代表とされるのが「人の行く裏に道あり花の山」である。
皆と違う動きをする人の方が成功しやすいという格言である。
なお、ウォール街にも同じ意味の相場格言がある。
Buy when others sell,Sell when others buy(人が売るとき買え、人が買うとき売れ)

その日、アルカディアは買い戻し優勢の相場で、無敗の個人投資家の売りを確認した。
その日に売った無敗の個人投資家は、ただ1人だった。
メンバーから売った男のイニシャルを聞いた創設者の社員は思った。
また、あの男かと。