2016年1月6日水曜日

銘柄を明かさない理由R16 無敗の投資手法

第16話 無敗の投資手法

社員は思った、無敗の個人投資家たちの売買は、株を安く買って、高く売るだ。
ところがその男は、高く買って、高く売っていた。
その男が初期に購入した株は、そのほとんどが高値掴みだった。
ところが後に売ったときには、購入時より低い売値にも関わらず利益が出ていた。

男がナンピンにより、取得単価を下げていることは間違いない。
だが、1銘柄当たりのナンピンの回数は、そんなに多くなく、むしろ少ない。
この男、最低限の回数で、効率よくナンピンを行っている。
そこまで考えて、再度、男の売買履歴を見直したとき、社員には男の投資手法が見えた。

男は株価が半値になる度に、購入時と同数の買い増し、ナンピンを行っていた。
1,000円の株を1,000株購入すれば、購入価格は100万円。
半値になったとき1,000株購入すれば、買い増し価格は50万円。
さらに半値になったとき1,000株購入すれば、買い増し価格は25万円となる。

理屈的には購入時と同じ100万円があれば、無限にナンピンが可能だ。
もちろん投資先の企業が倒産すれば、損失を確定せざるを得ない。
だが男の投資先は東証上場企業で、およそ倒産しそうにない企業ばかりだった。
長期投資では倒産さえしなければ、いつかは株価が上昇に転じる。

恐ろしいのは株価が上昇に転じたとき、底値で大量に株を仕込んでいる状態になることだ。
理屈ではわかる、しかし上昇に転じるまで、最大50%の含み損を抱えた状態になる
しかも、いつ上昇に転じるかは予測できず、上昇しなければ長期の含み損だ。
普通であれば、まともな取引などできない精神状態になるだろう。

男はリーマンショック時に何百万円もの含み損がありながら、無謀にも買い向かった。
また東日本大震災では、いち早く利益確定の売り、その後、全力で買い向かった。
社員は今になって、ようやくわかった。
男は暴落相場や急落相場だったから、買い向かったのではない。

男は前回の買い増し時の半値になったから、ナンピンしたにすぎない。
事実、購入時と同じ株数だけ買い増し、残りの資金で底値だった新規株を購入していた。
同じ株数しか購入しなかったのは、まだ下がるかもしれないと思っていたのか。
資料のプロフィールによると、この男は会社員らしい。

男は年齢からいって、結婚して子どもがいてもおかしくない年齢だ。
なぜ、このような投資ができるのか、男には絶対的な自信があるのか。
高く買っても、無限ナンピンにより譲渡益をたたき出す男。
社員には「下がるなら下がれ、ナンピンし続けてやる」という男の声が聞こえた気がした。