2016年1月3日日曜日

銘柄を明かさない理由R15 御前会議

第15話 御前会議

ある証券会社の資産運用を担当する部署、通称アルカディア。
アルカディアは、東日本大震災の急落時に大量の株を仕込んでいた。
仕込んだ株の値上りにより、過去最大の含み益となっていた。
いつしか創設者の社員は、社内で無敗のクイーンと呼ばれるようになっていた。

アルカディアの強みは固定費、特に人件費を含めた経費の安さにあった。
アルカディアのメンバーは、普段はアルカディア以外の業務に従事している。
必要なときのみ、アルカディアに召集され、株式の売買を行う。
アルカディアが負担するのは、彼女たちの実質稼動日分の経費だった。

例えば、あるメンバーが年間稼動日の10分の1をアルカディアの業務に従事する。
彼女の年間必要経費が1000万円だとすれば、アルカディアの負担は100万円となる。
本来ならあり得ない臨機応変な召集体制は、社長直轄部署ならではだった。
アルカディアは、社内の他部署を圧倒するコストパフォーマンスをあげていた。

2012年1月、アルカディア恒例の会議が開催された。
アルカディアは、無敗の個人投資家たちのデータを活用していた。
一度でも損失を出したりした場合、その個人投資家のデータは活用の対象外となる。
毎年1月に、個人投資家の売買履歴から、活用する個人投資家の見直しを行っていた。

各メンバーから、担当する個人投資家に関して、分析結果の説明が行われた。
株価が下がっているのに、売買していないのは塩漬けの可能性が高いなどだった。
毎年、無敗の個人投資家の数は減っていた。
今回も、幾人かの個人投資家が、データ活用の対象外となった。

会議が終わったあと、創設者の社員は会議資料に目を通していた。
無敗の個人投資家たちの売買は、実にシンプルだった。
株を安く買って、高く売る、ただ、それだけだった。
当たり前だが、含み損の状態で損失を確定するような者は一人もいない。

やがて、ある男の売買履歴のページに辿りついた。
リーマンショック時に何百万円もの含み損がありながら、無謀にも買い向かった男。
東日本大震災では、いち早く利益確定の売り、その後、全力で買い向かった男だった。
男の売買履歴は、2005年から始まっていた。

その男は2005年に株式取引口座を開設、その後、数百万円で株を購入していた。
その後の男の売買履歴に詳細に目を通していた社員は、思わず声を発していた。
「なんて売買履歴だ、こいつは何を考えているんだ」と。
しばらくして、社員はその男の売買には、ある法則があることに気づいた。