2016年1月2日土曜日

銘柄を明かさない理由R14 再びの試練

第14話 再びの試練

2011年3月11日、東日本大震災発生。
2011年3月14日、国内株式の主要指標は大幅に下落する。
2011年3月15日、日経平均株価終値は前日比1,015円34円安を記録する。
ブラックマンデー、リーマンショックに次ぐ、過去3番目の下落率となった。

3月12日と13日の土日を使って、男は独自に調査を行っていた。
首都圏では日用品や食料品の買占めで、店頭には商品が見当たらなかった。
ところが首都圏から西では、普段と変わらない日常の光景があった。
暴落しても、一時的な暴落に終わる可能性が高いと、男は確信した。

その日、休みをとった男はPCを起動させた。
男がリアルタイムで取引をするのは、初めてだった。
普段は出勤前に指値、前日終値での注文というスタイルだった。
おそらく過去最高の取引になると男は思いながら、取引開始時間を静かに待った。

同じ頃、アルカディアではメンバーが取引開始時間を待っていた。
創設者の社員は思った、今回の暴落は一時的なものになる可能性が高い。
メンバーにとって、初めての短期戦になることだけが不安だった。
いや大丈夫だ、彼女たちはリーマンショックを経験した精鋭だ、信頼しよう。

やがて取引開始時間となった。
男の最初の発注は、利益確定の売りだった。
リーマンショック時に仕込み、株価が数倍になっていた株を全数、売りに出した。
前日終値より大きく下げた指値での売りに、またたく間に全数が約定した。

アルカディアのシステムが、男の売りを知らせた。
「無敗の個人投資家の売りを確認しました」インカムをつけた女性が報告する。
「そいつのイニシャルを教えろ」創設者の社員が尋ねる。
イニシャルを聞いて社員は思った、何百万の含み損がありながら買い向かった奴かと。

圧倒的な売り優勢の中、前場の取引が終了した。
男は簡単な昼食を終えると、後場の取引について考えていた。
おそらく、今日の終値が最安値となるだろう。
口座にある現金と前場で売却して得た現金とで全力買いだ、男は決めた。

後場の取引が終了したとき、もはや男の取引口座の現金で買える株はなかった。
男にとって、1日あたり過去最高の取引額となった。
含み損だらけのポートフォリオを見ながら、男は思った。
これでしばらく何もできなくなった、あとは時間が過ぎるのを静かに待とうと。