2016年1月2日土曜日

銘柄を明かさない理由R13 災厄

東日本大震災の被害に遭われた皆様へ
被害に遭われた皆様に心よりのお見舞いを申し上げます。

第13話 災厄

リーマンショックから2年が過ぎた、2011年の正月。
全力買いが効を奏し、男の保有株の評価損益はプラスに転じていた
なかでも新規買いした株は、購入時の数倍の株価になっていた。
住宅ローンの一括完済に必要な額まで、あと少しだと男は思った。

株式投資を始める前、男は住宅ローンの繰上げ返済をしようとしたことがあった。
借入先の金融機関に繰上げ返済をしたいと伝えた。
金融機関の担当から、繰上げ返済には所定の手数料が必要だと説明された。
早期に返済するのに、なぜ手数料が必要なんだ、疑問に思い、男は繰上げ返済を辞めた。

早いもので株式投資を始めてから、5年が過ぎた。
リーマンショックのときは、どうなることかと思ったが、今のところ順調にきている。
保有株の評価損益額を見ながら、男は思った。
このペースでいけば、早ければ年内には住宅ローンを一括完済できるかもしれないと。

2011年3月11日。
男は勤務先で、いつも通りに仕事をしていた。
突如、大きな揺れが2度にわたり、男の勤務先がある首都圏を襲った。
地震や津波により各地の発電所は停止したが、各市場の停止には至らなかった。

男の勤務する会社では、早々に帰宅指示が出た。
帰宅困難者でごった返す中、男の頭の中には来週からの相場のことしかなかった。
来週からの相場は暴落する、早急に何らかの対策を打たなくてはならない。
男は帰路を急いだ。

同じ頃、アルカディアのメンバーは、地震の対応に追われていた。
営業社員のアシストをしている女性は、顧客からの電話対応に追われていた。
情報システムの女性は、システムの被害状況の確認作業に追われていた。
他のメンバーも、被災地の社員や家族の安否確認に忙殺されていた。

誰もいないアルカディアで、創設者の社員は一通りのシステムチェックを終えた。
地震発生は取引時間終了間際だったが、為替など市場は敏感に反応している。
リーマンショック後、ようやく回復基調にあった日本経済には大きな痛手だ。
間違いなく、来週からの相場は暴落する。

リーマンショックでは、直接的な人的被害はなかった。
だが今回は違う、多くの尊い命が失われることになるだろう。
そのことが市場に、どれだけの心理的影響を与えるのか。
ふと時計を見ると、すでに深夜になろうとしていた。