2015年12月29日火曜日

銘柄を明かさない理由R9 ある男の話

第9話 ある男の話

その男は、どこにでもいる会社員だった。
毎日、自宅と会社を往復、一日の大半を仕事に費やしていた。
安月給にも関わらず、長期の住宅ローンを抱えていた。
今日は休日なので、家族連れの多い行楽地にきていた。

混雑する行楽地で、男は思う。
みんな幸せなのだろうかと。
同じような家族連れを見て、満足しているだけではないのだろうか。
人と同じ休日を過ごすことで、我が家も幸せだと思い込んでいるだけではないかと。

簡易容器に入れられた高い値段のジャンクフードを買う。
平日ならば並ばなくてもすむアトラクションを何時間も辛抱強く待つ。
明日からは仕事で、単調な毎日の繰り返しが待っている。
こんな生活が、この先、定年まで続くのか。

人生とは何なのか。
若い頃の夢や希望はどこへ消えた。
こんな人生だけは送りたくない。
幸せそうな家族連れの中、少なくともこの男だけは幸せではなかった。

一向に増えない給与に、男はうんざりしていた。
世間は不景気で、リストラや給与ダウンが横行している。
今日も街で失業中らしい男を見かけた。
会社の給与だけでは、定年後も住宅ローンを払い続けなくてはならない。

どうしたら、金を稼げるのか。
アメリカには、株で莫大な富を得た投資家がいるらしい。
おそらく、株の才能があったのか、強運の持ち主なのだろうと男は思う。
男は、株はギャンブルだ、下手に手をだすと損するものだと思っていた。

ある休みの日、男は本屋へ出かけた。
特に買いたい本があった訳でもなく、単なるヒマ潰しだった。
本屋の店先には、株に関する本がたくさん並んでいた。
ヒマ潰しに読んで、矛盾点でも見つけてやろうと男は思い、1冊の本を買った。

その本は、ある個人投資家が書いた本だった。
アメリカの著名投資家の投資手法について、わかりやすく解説されていた。
バリュー投資という投資理論に、矛盾点は見当たらなかった。
読み終わったあと、男は自分も株で成功できるのではと思い始めた。