2015年12月26日土曜日

銘柄を明かさない理由R7 暴落のベラドンナ(中編)

第7話 暴落のベラドンナ(中編)

2008年9月15日、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻した。
原因はサブプライムローン問題に端を発したアメリカのバブル崩壊だった。
2008年10月9日、ニューヨーク証券取引所のダウ平均株価が、9,000ドルを割った。
2008年10月10日、東京証券取引所には、売り注文が殺到することになった。

その日、通勤中の女性に秘書から届いたメールは、いつもと違っていた。
「始業前にアルカディアへお集まりください」
あまりにも端的なメールに、彼女は嫌な予感がした。
何があったのだろう、メールの内容が端的すぎることが女性には不安だった。

朝のミーティングで、社員はアルカディアのメンバーに告げた。
「本日は、かってない相場になる。
正直いって、この先、どのような相場になるか予測はつかない。
現在、保有している株を片っ端から、売りまくれ」と社員はいった。

やがて始まった相場は、売り一色だった。
「どうやって売ればいいんですか」と、女性たちは初めて見る光景に怯えていた。
1人の女性がいった、「た、た、大変です、東証がサーキット・ブレーカーを発動しました」
「慌てるんじゃない」とはいったものの、社員には打つ手が思いつかなかった。

その日以来、相場は大きな下落と小反発を繰り返しながら下げ続けた。
アルカディアには、致命的な弱点があった。
保有する株数が、あまりにも多すぎたのである。
売り抜けようにも、全ての株をプラスで売り抜けることは不可能だった。

2008年9月17日の日経平均株価終値は、12,214円だった。
同年10月28日には一時、6,000円台まで下落、26年ぶりの安値を記録した。
世界的な金融危機、リーマン・ショックだった。
アルカディアの保有株は、膨大な含み損を抱えることになった。

その日、誰もいないアルカディアで、社員はベラドンナという多年草を思い出していた。
名前はイタリア語で「美しい女性」を意味する。
名前とは違って全体に強い毒性をもち、食すと最悪の場合、死に至る。
相場もベラドンナみたいなものかもしれない。

見た目は華やかだが、食すと最悪の場合、死に至る。
自分は浅はかだった、相場のもつ毒を知っていながら、あえて見ないようにしていた。
社長との約束どおり、責任をとるか。
社員は、社長室秘書へ社長とのアポイントをとるよう依頼した。