2015年12月25日金曜日

銘柄を明かさない理由R6 暴落のベラドンナ(前編)

第6話 暴落のベラドンナ(前編)

アルカディアが創設されてから、3年が過ぎようとしていた。
創設者の社員が出す株の売買指示を、手慣れた10名の女性社員たちが捌いていく。
「買い方は買値を切り下げろ、売り方は売値を切り上げろ」と社員の指示が飛ぶ。
今年も、アルカディアが昨年以上の利益をたたき出すのは、ほぼ確実だった。

アルカディアで株の売買指示を出すのは、創設した社員だった。
取引時間中は壁面のモニターを見ながら、臨機応変に指示を出す。
アルカディアでの業務を終えたあと、女性はいつも思う。
「この社員は、どうして的確に私たちを招集し、指示ができるのだろう」と。

実際、社員の指示通りに売り買いして、損をしたことは一度もない。
全てが大小の程度はあれ、プラスの取引だった。
女性は証券会社勤務だが、株はギャンブル的な要素が強いと思っていた。
だが、今では株はギャンブルではない、マネーゲームだと思い始めていた。

アルカディアに召集されてから、女性を取り巻く環境は変わった。
上司や同僚が物事を頼みにくくなったのか、女性に頼みごとをしなくなった。
仕事を手伝おうとしても、遠まわしに断られる。
他のアルカディアのメンバーに聞くと、皆が同じ思いをしているらしい。

ある日、普段は受付をしている女性社員が、アルカディアの飲み会を企画した。
ひょっとして創設者の社員は来ないのではと皆が思ったが、意外にも参加した。
飲み会の席で、普段は経理部の女性社員が、創設者の社員に、ある疑問をぶつけた。
「なぜ、私たちが選ばれたんでしょうか」

創設者の社員は答えた。
自分は入社以来、資産運用のコンサルティング業務を担当していた。
ところが、いつも女性だというだけで、男性社員よりは低い扱いだった。
男性社員の仕事をアシストし、顧客からの電話応対に追われる日々だった。

いつも自分は、もっと人の役にたてるのではないかと思っていた。
自分はたまたま、アルカディアの責任者を命じられた。
正直いって、最初はいつでも召集できる社員ということで君たちを選んだ。
だが、今は違う、君たちを選んで、いや、君たちが来てくれてよかったと思っている。

何を真面目に仕事の話しているんですか、と普段は広報部の女性社員がいった。
オジサンの飲み会じゃないんですから、仕事の話はやめましょうよ。
社内の人気男性社員について話しませんか。
その頃、アメリカのある投資銀行が破綻しようとしていたことを、彼女たちは知らなかった。