2015年12月24日木曜日

銘柄を明かさない理由R5 あるイベントにて

第5話 あるイベントにて

女性にとって、アルカディアでの業務は、何もかもが新鮮だった。
創設者の社員によると、同時間帯に取引をしているのは、各社のプロだという話だった。
各社のプロと互角、いや相手を上回るリターンをたたき出している、と創設者の社員はいう。
召集後のミーティングで、創設者の社員はいつも同じことをいった。

「いいか、お前たちは選ばれし者だ。
自分たちが社内、業界、いや世界で一番、偉いと思え。
お前たちに勝てる奴など、この世に存在しない。
今日も勝って勝って勝ちまくってやれ」

女性は思った、私の判断と発注スピードで、会社の利益が確定する。
1回の取引金額は、およそ私生活で目にすることのない金額だ。
日に日に1回あたりの取引金額は大きくなっていく。
日頃は1円でも安い物を探しているのに、仕事では桁違いの取引をしている。

まさか、こんな仕事をするようになるとは思いもしなかった。
アルカディアでの業務は、知力、体力ともに最大限、消費する。
だが女性は、いつしかアルカディアからの召集を心待ちにするようになっていた。
アルカディアでの業務が始まってから、明らかに女性は変わった。

冬のある日、秘書から女性たちへ届いたメールは、いつもとは違っていた。
「みなさん、明日はアルカディアへの召集はありません」という一言だった。
指示を出す社員が、有給休暇でも取得するのだろうか。
明日は普段の業務に専念しなさいってことか、と女性は思った。

翌日は、上半期の社内業績表彰が行われる日だった。
優秀な成績をあげた部署や社員が表彰されるイベントだ。
時期が遅すぎるし、自分には一生、縁のないイベントだと女性は思っていた。
いよいよ、最優秀部署の発表になった。

司会役の男性社員がいった。
「最優秀部署は、我社の資産運用を担当する部署、通称アルカディアです」
司会役の社員は、アルカディアがこの1年でどれだけの実績を上げたかを説明した。
役員をはじめ、集まった社員たちからは驚きと賞賛の声があがった。

サンタに扮した司会役の社員が続けていう。
「では、お待ちかねの最優秀社員の発表です。栄えある最優秀社員は・・・」
呼ばれたのは、自分の名前だった。
その日は、女性にとって忘れることのできないクリスマスになった。