2015年12月22日火曜日

銘柄を明かさない理由R3 選ばれし者たち

第3話 選ばれし者たち
 
女性はその年の新入社員で、事務職での入社だった。
配属が営業関係の部署だったので、仕事はもっぱら男性社員のアシストだった。
男性社員のために資料を作ったり、顧客からの電話対応が主な仕事だった。
いい男を見つけて、早く仕事から解放されることが、もっかの彼女の夢だった。

ある日のこと、彼女のPCに1通のメールが届いた。
送り主は社長室秘書、社長室秘書なんて自分には一生、縁がない身分だ。
社長室秘書が、いったい私に何の用だろう。
彼女は、恐る恐るメールを開いた。

メールの内容は簡潔だった。
「この度、選ばれたみなさんへの業務説明会が実施されます。
ついては下記の日時にお集まりください。
集合場所は決まり次第、ご連絡させていただきます」

選ばれた?自分が?何のスキルもない新卒なのに?
そうか、いてもいなくてもよい社員の業務説明会。
なるほど、早くに会社を辞めさせるための説明会か。
いったい、何をやらされるのだろう、イヤな仕事だったら辞めようと女性は思った。

女性は人を待たせるよりは、自分が待つ方が好きだった。
その日も開始時間の30分前に、指定された社内の会議室へ向かった。
すでに会議室のドアは開け放たれ、1人の社員が腕組みをして座っていた。
社員は目を閉じ、考え事をしているようだった。

なるべく音をたてないよう、女性は後ろに近い席に腰掛けた。
あの人が責任者だろうか、まだ若いのに、よほど仕事ができるのだろうか。
そんなことを考えながら、前の社員を見ていた。
ふと窓の外を見て視線を戻すと、社員がまっすぐに自分を見ていた。

目を逸らそうと思ったが、あまりにも急だったので逸らすことができなかった。
「早いな」と社員はいった。
「今の時期は、そんなに仕事が多くないですから」と女性はいった。
「そうか」と社員はいい、また目を閉じた。

やがて、始まった説明会は、あっという間に終わった。
参加者の女性10人に会社の資産運用をお願いしたい。
ついては召集があれば、トレーディングルームへ来るようにという内容だった。
会社の資産運用?トレーディング?女性には訳がわからないことばかりだった。