2015年12月31日木曜日

銘柄を明かさない理由R12 無敗の個人投資家たち

第12話 無敗の個人投資家たち

リーマンショックから1年が過ぎ、アルカディアの運用は回復基調にあった。
普段は営業社員のアシストをしている女性は、創設者の社員を見て思った。
2ヶ月足らずで日経平均株価は半値近くまで下がった。
あの局面で、冷静に買い向かった創設者の社員は天才なのかもしれない。

ある日のこと、創設者の社員は社長室秘書にある依頼をした。
一度も損失を確定していない個人投資家の取引履歴が欲しいというものだった。
アルカディアのメンバーに、普段は情報システムの仕事をしている女性がいた。
秘書からの依頼を受けた彼女は、条件に合う個人投資家のデータを抽出し、提出した。

情報システムの女性は思った、一度も損失を確定していない個人投資家は驚くほど少ない。
大半の個人投資家が、リーマンショックで自らの損失を確定していた。
自分は証券会社勤務なので、私的な株式取引は禁じられている。
だが、株式取引をしていて、リーマンショックに遭遇すれば、ロスカットしていただろう。

数日後の取引時間終了後、アルカディアでミーティングが開かれた。
ミーティングでは、メンバーにある資料が配布された。
その資料は、過去、損失を確定せず、1年前に買い向かった個人投資家のリストだった。
リストには、彼らのイニシャルと今までの売買履歴が記されていた。

創設者の社員の話は以下だった。
情報化が進んだ現在において、プロとアマの差はないといっても過言ではない。
これからは相場を読む力に長けた者、無敗の個人投資家たちのデータを活用していく。
リストの者たちの取引状況を、アルカディアの端末に反映させたというものだった。

情報システムの女性は思った。
ここ数日間、男性社員たちが残業していたのは、これだったのかと。
社内システムの定期メンテナンス時期に、急な仕事が舞い込めば残業せざるを得ない。
女性は男性社員たちの頑張りに心の中で感謝した。

創設者の社員は続けていった。
このリストの者たち全てが、相場を読む力に長けているかは、まだわからない。
なかには、たまたま運がよかっただけの者もいるだろう。
これから彼らの取引状況を見ながら、リストの者たちを絞り込んでいく。

ミーティングが終わったあと、創設者の社員はあらためてリストを見ていた。
リストの者たちの多くは、リーマンショック前に元本を引き上げていた。
ところがリストのある男は、数百万の含み損がありながら、無謀にも買い向かっていた。
おそらく、この男には失うものが何もなかったのだろうと社員は思った。