2015年12月30日水曜日

銘柄を明かさない理由R11 Buy when others sell

第11話 Buy when others sell

男の株式投資は順調だった。
不思議なもので株式投資を始めてから、毎月、貯蓄ができるようになった。
一定額が貯まる度に、男は取引口座へ入金し、株を購入するようになった。
いまや、男の資産の大半は取引口座にあった。

男は株式投資に際し、全額で株を購入することはしなかった。
取引口座には、常にいくらかの現金を残すようにしていた。
ないとは思うが、相場が暴落した際に買い増しするためだった。
おそらくだが、当分、相場が暴落することはないと男は思っていた。

2008年9月15日、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻した。
原因はサブプライムローン問題に端を発したアメリカのバブル崩壊だった。
2008年10月9日、ニューヨーク証券取引所のダウ平均株価が、9,000ドルを割った。
2008年10月10日、東京証券取引所には、売り注文が殺到することになった。

その日の夜、男は新聞を読んで思った。
一時的な下げだ、またすぐに回復すると。
だが、その日以来、相場は大きな下落と小反発を繰り返しながら下げ続けた。
男が保有する株は、いつしか含み益がなくなり、含み損が増え始めた。

2008年9月17日の日経平均株価終値は、12,214円だった。
同年10月28日には一時、6,000円台まで下落、26年ぶりの安値を記録した。
気がつくと、男の保有株の含み損は、数百万円になっていた。
どうすれば状況を改善できるのか、男はようやく考え始めた。

日本の相場の歴史は古く、江戸時代の米相場から始まったといわれている。
これまで酒田五法を考案した本間宋久をはじめ、多くの相場師を輩出してきた。
長い相場の歴史の中では、数多くの相場格言が生まれた。
相場格言の代表とされるのが「人の行く裏に道あり花の山」である。

皆と同じ動きをしたのでは、大きく成功することはできない。
あえて皆と違う動きをする人の方が成功しやすいという格言である。
なお、ウォール街にも同じ意味の相場格言がある。
Buy when others sell,Sell when others buy(人が売るとき買え、人が買うとき売れ)

今は買いどきかもしれないが、これ以上に下がったら、自分は再起不能かもしれない。
どうする、何を信じる、やらずに後悔するよりは、やって後悔した方がマシだ。
男は取引口座に残っていた全額を投じて、保有株を買い増し、新規株を購入した。
男の取引口座の現金はなくなり、あとは待つことしかできなくなった。