2015年12月19日土曜日

銘柄を明かさない理由R1 女王の生誕

「ロイヤルストレートフラッシュ」は、ポーカーにおいて最も強い役である。
ロイヤルも含めたストレートフラッシュができる確立は、わずか0.0015%にすぎない。

第1話 女王の生誕

ある証券会社のカウンターでは、いつもの光景が繰り広げられていた。
資産運用の相談を持ちかけた老夫婦に、若い社員が説明していた。
「投資信託なんて、とんでもない。今の低金利時代、株を買いなさい」という社員。
「いや、そういわれても、どの株を買えば、わかりませんし・・・」と困惑する老夫婦。

「自分たちの資産運用ですよ。なら自分たちでも考えることです」といい放つ社員。
上司らしき男性がいった、「おい君、社長がお呼びだ、今すぐ社長室へいきなさい」
社長室へ向かう社員を見送ったあと、上司は老夫婦に満面の笑みを浮かべていった。
「申し訳ございません、お客様、先日、発売された投資信託についてご説明差し上げます」

社長室へ向かいながら、自分の接客態度にクレームがあったのかと、社員は思った。
もし辞めろといわれたら、いつでも辞めてやると考えていた。
自分には、資産運用のプロだという自負がある。
会社も顧客もWin-Winになる資産運用を勧めて、責められる覚えはない。

社長室の秘書に、社長に呼ばれてきたことを告げる。
秘書が社長に来たことを告げると、すぐに社長室に通された。
社長は立って、黙って窓外の風景を眺めていた。
やがて振り向いた社長が発した言葉は、社員が思いもしなかった意外な言葉だった。

振り向いた社長が話し始めた。
「君の噂は聞いているよ。
お客様に自社の商品は勧めず、個別株の売買しか勧めない。
当然ながら営業成績は最下位だとな。

にも関わらず、お客様アンケートでの君の評価はダントツのトップだ。
私の元にも、毎日のように君のお客様からのお礼の手紙が届く。
そんな君に、よい話と悪い話を用意した。
どちらの話を聞きたい」

しばらく考えてから社員は、「よい話をお伺いしたいです」といった。
「どうして、よい話を聞きたい」
「どちらからではなく、どちらのと聞かれて、悪い話を選ぶ社員はいないでしょう」
「最終試験に合格だ。悪い話とはよい話を聞けないことだよ」

やがて社長は社員にソファに座るよう促し、自分も向かいのソファに座った。
飲み物を運んできた秘書が退室すると、社長はよい話を語りだした。
社員にとっては寝耳に水の話だった。
聞いている内に、社員は思わず鳥肌がたつのを感じていた。

社長の話は以下だった。
今まで、社長が行ってきた会社の資産運用を任せたい。
新規に会社の資産運用部署を立ち上げるので、責任者になって欲しい。
必要な人材や設備は、できる限り、社員の希望に沿うようにするというものだった。

社長の条件は一つで、必ずプラスにしろというものだった。
いかなる理由であれど、損失が確定した時点で、責任を取ってもらうという条件だった。
「どうだ、受ける気はあるか」と社長が聞いた。
「はい、謹んでお受けいたします」と社員は答えた。

秘書は、社長室から出てきた社員を見て、驚きの表情を隠せなかった。
社員は、社長室に入る前の顔とは、別人かと見間違うほどの顔になっていた。
社員は秘書に歩み寄りいった。
「これから君に頼みごとをするが、自分の頼みは全て社長からの頼みだと思って欲しい」

社長室で何があったのか知らない秘書は、何も答えることができなかった。
秘書として、社長に目をかけられている社員は、全て把握しているつもりだった。
だが、今、目の前にいる社員は、ノーマークの社員だった。
「詳しくは後で社長に確認してくれたまえ」と社員はいい、社長室を後にした。